PICK UP EXHIBITIONS 「海に流された数奇な運命-吉村昭 「漂流」と「アメリカ彦蔵」」
はじめに
作家・吉村昭には、漂流を題材にした主な作品が7作あります。
「漂流」
「アメリカ彦蔵」
「大黒屋光太夫」
「島抜け」
「花渡る海」
「船長泣く」
「漂流記の魅力」
2026年は「漂流」の出版された1976(昭和51)年から50年、2027年は「アメリカ彦蔵」の主人公である浜田彦蔵(1837~1897)の没後130年という節目にあたります。
今回の企画展では、この7作品の中から「漂流」と「アメリカ彦蔵」が取り上げられています。
この入口から、作家・吉村昭が描く作品の世界を見に行きましょう。

第1章 「アメリカ彦蔵」
「アメリカ彦蔵」は、現在の兵庫県加古郡播磨町出身の浜田彦蔵(ジョセフ・ヒコ*)について描いた作品です。彦蔵は1850年、遠州灘で暴風雨に遭い漂流し、アメリカ船に救助されて渡米しました。幾多の苦難を乗り越えて日本に帰国後、横浜で民間人として初めての邦字(日本語)新聞を発刊しました。吉村は以前から彦蔵に関心を抱いており、彦蔵を主人公に小説を書いてみたいと考えていたようです。
*彦蔵はアメリカでカトリックの洗礼を受け、「ジョセフ・ヒコ」と名のり、その後アメリカ市民権を取得しました。今回の「アメリカ彦蔵」を紹介する展示では、作中と同様に「彦蔵」の表記で統一されています。
ここでは、彦蔵の肖像写真を見ることができます。
14歳:1851年頃
20歳:1857年頃
28~29歳頃:1866年頃
晩年:自叙伝の2巻見返しより
作品の中での彦蔵の様々な経験を思い浮かべながら写真をご覧いただくと、その特異な経験が彼に与えた影響の大きさをリアルに感じることができると思います。
「日本国新聞発祥之地」碑の写真が目を惹きます。これは、横浜中華街の関帝廟通りにあります。
当時、幕府内で外国語新聞の翻訳が回覧されていましたが、一般の日本人を対象にした新聞としては最初のものでした。
彦蔵は新聞発行の創刊の辞として、「童子にも読める」新聞精神について述べています。

荒川区立図書館所蔵:『アメリカ彦蔵』(新潮文庫刊/2001年)
第2章 「漂流」
ここでは、主人公の長平が過ごした無人島のありさまを記した絵図、長平無人島漂流絵図(写真提供 高知県立図書館)や、映画「漂流」に関する様々な資料を見ることができます。
「漂流」は、18世紀後半、シケに遭い無人島に漂着した土佐の船乗り、長平を主人公にした長篇小説です。吉村は、長平の強靭な意思力と、12年余に及ぶ無人島での生活が、創作意欲を刺激したと記しています。
「漂流」は映画化され、1981年に公開されています。
ロケ地は鹿児島県のトカラ列島に属する諏訪之瀬島(すわのせじま)と、スコットランドのフォース湾に浮かぶ小島、バスロック島です。バスロック島は、シロカツオドリの繁殖地として知られています。

荒川区立図書館所蔵:『漂流 改版』(新潮文庫刊/2008年)
おわりに
吉村昭は「アメリカ彦蔵」について、作品の本旨は漂流民の悲哀を書くことなのだ、という意味の文章を残しています。
漂流記に魅せられた作家、吉村昭の描く日本独自の海洋文学を、この企画展で体感していただきたいと思います。
写真撮影スポット
「漂流」において長平の生存に大きな役割を果たした「あほう鳥」。写真パネルで、その大きさを体感することができます。

今回の企画展をご覧いただきましたら、記念撮影をおすすめします。

インフォメーション
- 会期
令和8年8月8日(土)~10月4日(日)
【休館日】9月4日(金)・9月17日(木) - 開館時間
9時~20時30分 - 会場
ゆいの森あらかわ3階企画展示室 - 観覧料
無料 - 企画展公式サイトURL

