PICK UP EXHIBITIONS『吉村昭「高熱隧道」-黒部の難工事を描く-』

「黒部渓谷は、人間が挑むのは到底不可能な世界なのかも知れない」

『高熱隧道』は、黒部ダム建設に先駆けて行われた、
黒部川第三発電所・仙人谷ダムの難工事を描いた小説です。

吉村氏の綿密な取材に基づいており、工事現場の描写は凄まじいものがあります。
自然の恐ろしさと同時に、人間の執念、狡さ、情などが複雑にが絡み合った姿が描かれています。

吉村昭記念文学館では、その執筆の背景を紹介する企画展が行われています。

トンネルのような入り口をくぐると、まずは『高熱隧道』を描くまでの作品を紹介しています。

模索の時代を経て、黒部ダム建設を描いた『水の葬列』、太宰治賞を受賞した『星への旅』、そして『戦艦武蔵』。

第2章が、いよいよ『高熱隧道』です。

小説は衝撃的な書き出しではじまりますが、その自筆原稿を見ることができます。

また、高熱隧道を訪れた時の日記には、短いながらも吉村氏が受けた印象が記されています。
その表現も必見です。

司書おすすめのコーナー

『土木学会誌』第25号第7号

吉村氏の原稿や日記が見どころなのはもちろんですが、
その隣の展示もじっくり見ることをお勧めします。

まさに工事中の様子を報告している学会誌があり、
冷却機を設置したこと、氷棒やダイナマイトのことを話しています。

文中の「現在」という言葉を見たとき、
この報告の最中にも、吉村氏が描いた過酷な作業が続いていたのだと、小説の壮絶な場面を思い浮かべてしまいます。

他にも、「作業夫こそ本高熱隧道工事第一線の殊勲者と云へよう」と書かれた当時の雑誌も展示されています。

 

この部屋の一角で、映像『黒部奥山を拓く』が上映されています。

小説にも出てきますが、幅60cmの水平歩道を連なって歩く作業員たちの姿を見ることができます。

また別の章では、映画『黒部の太陽』も取り上げています。

映画で使われたヘルメット、ホイッスル、ジャケットなどが展示されており、
映画ファンにもたまらない内容となっています。

小説を読んでから訪れると、より楽しめる企画展だと思います。
未読の方はぜひ、小説もお楽しみください。

 

『高熱隧道』

吉村昭『高熱隧道 改版』(新潮文庫/2010年7月)

インフォメーション

  • 会期
    令和4年10月21日(金)~12月21日(水)
    【休館日】11月17日(木)・12月2日(金)・15日(木)
  • 開館時間
    9時~20時30分
  • 会場
    ゆいの森あらかわ3階企画展示室
  • 観覧料
    無料