PICK UP EXHIBITIONS「翻訳されたYOSHIMURA文学」

世界で出版されている吉村昭の翻訳作品を、一挙に紹介!

企画展「翻訳されたYOSHIMURA文学」入口
吉村昭記念文学館では今回、世界を魅了していった吉村文学の翻訳作品に焦点を当て、「翻訳されたYOSHIMURA文学」と題した企画展を開催しています。
展示室に入って正面のガラスケースの中には、ひときわ色鮮やかでインパクトのある棟方志功の表紙が、目に飛び込んできます。吉村昭初の翻訳作品「背中の鉄道」を収録した『戦後の日本文学全集』(1989年メキシコで出版・スペイン語版)です。
またその周りには、まだインクの色も鮮やかな吉村昭氏の自筆原稿、そして津村節子氏から寄託された、吉村氏愛読の海外作家の著作が並べられています。
学芸員の方のお話では、吉村氏は長篇よりも、短篇を好まれて読まれたのだとか……。
長い年月を経て、吉村氏が繰り返し読まれたという本の現物を見ることができているのだと思うと、とても不思議な気持ちになります。

吉村文学の中で、最も多くの言語に翻訳された作品

『破船』

まず企画展の中で大きく取り上げられているのは、吉村文学の翻訳作品が世界で出版されるきっかけとなった『破船』です。
1996年に、アメリカで英語版を出版。以降、海外で注目を集め、ドイツ語、オランダ語、フランス語、ポーランド語、ヘブライ語など、多くの言語で翻訳本が刊行されてきました。
当時、海外でいかに多くの書評に取り上げられ、どのような反響があったのか、この企画展ではよく見て取れるようになっています。
「『破船』は、私にとって愛着のある作品」と、今回展示されている吉村氏直筆の書簡にも実際に書かれており、さらにその中では、躍動感ある英文に訳した翻訳者に対しても感謝の意を記しています。
そんなところからも、吉村氏の『破船』に対する特別な感情が垣間見えてきます。


荒川区立図書館所蔵:『Shipwrecks(破船)』―【英語版】―(Harcourt/2000年)


※『破船』は、2022年4月に「本屋大賞超発掘本!」に選定されています。
『破船』(新潮文庫/1985年3月)

フランスでは、2020年に『破船』を原作とした映画「Fires in the dark」が制作され、公開となりました。
この映画の1分間の予告編映像が、展示室の壁に繰り返しプロジェクターで映し出されています。
また、今回の企画展開催中の関連イベントとして、この映画の上映会が2月26日にゆいの森ホールで行われます。

直筆の書簡

書簡
こちらは『破船』や『仮釈放』の書評が、ニューヨークタイムズ誌等に掲載された際に吉村氏が著作権エージェントの方とやりとりしていた手紙です。
「辞書をひきながら読みました」「理解し、認めてくれましたことに、照れ臭さとともに喜びを感じています」など、手書きの文字の率直な文面を見ると、吉村氏が少し身近に感じられます。

翻訳された吉村文学の世界に思いきり浸れる空間

大きなガラス一面の展示ケースに、「世界に広がる吉村作品」と題した大きな世界地図と、「吉村昭海外翻訳作品リスト」、そして各国で出版された吉村作品がズラリと並んでいる様は圧巻です。
言語や出版国、デザインや装丁などの違いが興味深く、見比べていると時間を忘れてしまいそうです。
そしてそのガラスの向こう側を見ると、展示用のライトを浴びた地球儀が静かに佇んでいるのです。
吉村昭の翻訳作品がどのように世界で評され、広がっていったのかという過程や、吉村氏ご自身の翻訳作品に対する思いなどが感じ取れるような、見ごたえのある企画展でした。

展示を見た後も……


今回の企画展では、オールカラーの素敵な冊子が無料配布されています。
眺めているだけでも楽しい各国のブックデザインや、出版年順の翻訳作品リストなど、これから吉村作品を楽しむのにも役立つ情報が盛りだくさんの充実した一冊です。

インフォメーション

  • 会期
    令和5年1月20日(金)~3月15日(水)
    【休館日】2月3日(金)・16日(木)
  • 開館時間
    9時~20時30分
  • 会場
    ゆいの森あらかわ3階企画展示室
  • 観覧料
    無料
  • 企画展公式サイトURL
https://www.library.city.arakawa.tokyo.jp/contents?5&pid=1406

企画展ポスター画像