尾久の史跡さんぽ~尾久の原公園から宮前公園まで~
尾久図書館周辺のお散歩コースです。
旅のしおり
尾久の原公園
知る人ぞ知る都内屈指のトンボの生息地
尾久の原公園は、大正7年(1918)に建てられた旭電化工業(現:株式会社ADEKA)の工場の跡地につくられた都立公園です。
荒川区内の自然保護団体の尽力で貴重なトンボの生息地としても知られています。
浮世絵「尾久原桜草」
(摺師松崎啓三郎氏所蔵)
尾久の原は、江戸時代の桜草の自生地の名所として「江戸名所花暦」に紹介されています。
桜草を摘む女性と弁当を広げている人たち、遠景に荒川(現在の隅田川)の川辺の船から白魚漁をする漁師が描かれています。
尾久の原公園
荒川区東尾久7丁目1番
上尾久の馬捨場跡
荒川区最古の庚申塔
尾久の原公園と隅田川の間に馬頭観音という赤いのぼりが立つ場所があります。
かつては馬捨場と呼ばれた場所で、死んだ牛や馬が持ち込まれ、解体・加工されていました。
明治時代以降は馬捨場としての役割は終わり、運送業者の信仰や、戦争で徴用された馬を供養する場となっていきます。
隅田川の護岸整備にともない、数度場所を移しました。
右の祠の中には寛永15年(1638)12月8日銘の庚申塔があり、これは荒川区最古のものです。
上尾久の馬捨場跡
荒川区東尾久7丁目4番
田端変電所
長距離送電への挑戦
熊野前交差点から早稲田方向に都電通り沿いを歩くと左手に
東京電力パワーグリッド株式会社田端変電所の鉄塔が見えます。
田端変電所は大正4年(1915)に送電を開始しました。
福島県猪苗代から荒川区尾久まで225kmの送電線は、世界第3位の長距離で
11万5000Vの電圧は当時の国内における技術水準を超えた送電への挑戦でした。
田端変電所
荒川区東尾久5丁目31番11号
碩運寺
湯治場「寺の湯」
都電通りをそのまま進み、宮ノ前停留所近くの小道を入るとすぐに硯運寺があります。
硯運寺は本所石原町(現墨田区)から明治43年(1910)に現在地に移転してきた曹洞宗の寺院です。
大正3年(1914)に寺内で掘った井戸の水を当時の住職が検査に出したところ、ラジウム鉱泉であるとわかり「寺の湯」として湯治場を開業しました。
その後、尾久地域には次々と温泉旅館、料理屋などができ、「寺の湯」は尾久地域の発展のきっかけとなりました。
「寺の湯」の建築図面を含む碩運寺文書(荒川区登録有形文化財〈古文書〉)が伝わります。
碩運寺
荒川区西尾久2丁目25番1号
尾久八幡神社
尾久地域の鎮守
都電荒川線宮ノ前停留所の前に鎮座する、地域の信仰を集める神社。
正和元年(1312)に、尾久の地が鎌倉の鶴岡八幡宮に寄進された頃の創建と考えられています。
中世から近代にかけて8枚の棟札(荒川区指定有形文化財〈歴史資料〉)が残っており、最古は南北朝時代の至徳2年(1385)の銘です。
江戸時代の上尾久村の様子を伝える上尾久村村絵図(荒川区指定有形文化財〈古文書〉)が八幡神社に残っています。
農村だった尾久地区には、石神井用水の支流の用水路と不用な水を流す悪水路が幾筋もあり、八幡神社の北で合流する2筋の水路は八幡堀と呼ばれました。
なお北側にある八幡堀公園は、暗渠化して空き地になっていた土地に、地元住民が要望して昭和11年(1936)に開園した公園です。
「上尾久村村絵図」からは、八幡堀などの水路の流れや、分割して支配されていた旗本の知行地(※)など農村だった頃の地域の様子がうかがえます。
※)領主が旗本に与えた土地
都電「宮ノ前」「熊野前」の停留場は、尾久地域で現在も知られている数少ない字名です。
実は尾久地区周辺の電柱にも、古い地名(「上尾久」「小橋」「馬場」など)を確認することができます。
尾久八幡神社
荒川区西尾久3丁目7番3号
宮前公園
区内有数のローズガーデン
尾久八幡神社を出て隅田川に向かって歩くと宮前公園があります。
2022年に開園した宮前公園は、区内でも有数のローズガーデンのある公園です。
3000㎡の天然芝の広がる多目的広場は、防災拠点として防火水槽やマンホールトイレなどが整備されています。
全長約30mのローラーすべり台や、遊具のある子ども広場もあり、たくさんの方の憩いの場として親しまれています。
宮前公園内には、尾久地域の文化拠点として尾久図書館があります。
キューブが組み合わさったような建物で、煉瓦のある街並みと公園との調和に配慮したデザインが特徴です。
公園の緑に囲まれながら、木のぬくもりを感じる館内で読書を楽しめます。
宮前公園
荒川区東尾久8丁目45番22号
図書館で本を借りる
- 『江戸名所花暦』岡山烏/著 長谷川雪旦/画 今井金吾/校注 八坂書房 1994年
- 『隅田川とその両岸 補遺 下巻』豊島 寛彰/著 芳洲書院 1975年
- 『隅田川のほとりによみがえった自然 -下町の原風景を求めて-』野村圭佑/著 プリオシン/出版 1993年
- 『荒川区史跡散歩』高田隆成/著 荒川史談会/著 学生社/出版 1992年
- 『あらかわの庚申塔』荒川区教育委員会/著 荒川区教育委員会/出版 1990年
- 『尾久の民俗』荒川区民俗調査団/著 荒川区教育委員会/出版 1991年
- 『都市周縁の考現学』八木橋伸浩/著 言叢社/出版 1995年
- 『荒川区の文化財(五)』荒川区教育委員会/著 荒川区教育委員会/出版 2024年
- 『荒川区の文化財(一)』荒川区教育委員会/著 荒川区教育委員会/出版 1986年
- 『復刻版 東京府北豊島郡尾久町全図』荒川区教育委員会 荒川区立荒川ふるさと文化館 荒川区立荒川ふるさと文化館/出版 2011年
- 『長谷川利行展』府中市美術館 福島県立美術館 久留米市美術館 足利市立美術館 碧南市藤井達吉 現代美術館 府中市美術館/出版 2018年
- 『明治・大正家庭史年表 1868→1925』下川耿史/編 家庭総合研究会/編 河出書房新社 2000年
- 『新修荒川区史 昭和三十年版 上巻』荒川区/著 荒川区 1955年