私の好きな吉村昭作品『桜田門外ノ変』
吉村昭『桜田門外ノ変 上 改版』(新潮文庫/2009年12月)
江戸時代、幕末。多くの外国船が来航し、幕府の鎖国政策が揺らぎ始めた頃、大老に就任された彦根藩主 井伊直弼は、多くの反対を押しのけ開国へと大きく舵を切る。尊王攘夷論を強く押していた水戸藩主 徳川斉昭を筆頭に、水戸藩士たちは、井伊を主軸とする日本の幕政に大きな危機感を抱く。
異議を唱える水戸藩に対し、強硬な姿勢を見せる井伊直弼は、ついに「安政の大獄」へと乗りだし、反体制勢力の公卿・大名・浪士たちを次々と弾圧、処刑してゆく。
藩主斉昭が蟄居を命じられ、水戸藩への風当たりがますます強くなる中、井伊の強権的な断行に憤りを感じた水戸藩浪士たち数名は、同じく日本の先行きを憂う薩摩藩浪士 有村兄弟と共に、井伊直弼暗殺を計画する…
時代の流れを大きく動かし、明治維新を数年早めたともいわれる歴史的大事件を、事件主犯の一人である関鉄之介の目線から、事に至るまでの経緯、またその後の顛末まで詳細に描いた歴史小説である。
史実をテーマにするからこそ、調査や取材に対して徹底的に忠実である吉村昭のスタイルがふんだんに味わえる作品。「史実を歩く」「ひとり旅」「私の引出し」など多くのエッセイの中で、何故、関を主人公に選んだのか、事変の流れを左右した当日の天気は、本書完成のサイン会に現れた人物は…など、作品にまつわる裏話が語られており、合わせて読むと、本作品の魅力が倍増すること請け合いである。
吉村昭記念文学館企画展『幕末ドラマ 吉村昭が描く「桜田門外ノ変」』は
令和6年10月20日(日)~12月18日(水)
ゆいの森あらかわ 3階企画展示室にて開催
司書による企画展レポートはこちら