おすすめの本

きっとあなたにも

  • 掲載日:2021年2月15日

昨今の韓国文化の興盛は目覚ましいものがあります。カンヌにアカデミー賞にビルボード、2020年は韓国発のエンタテインメントが世界を席巻した一年だったのではないでしょうか。文学に目を向けても、『82年生まれ、キム・ジヨン』を嚆矢として、韓国作家の翻訳書が日本でも日に日に存在感を増していて、図書館のカウンターで手渡す機会も増えてきました。今回は韓国をテーマにおすすめの3冊を紹介します。

韓国文学を旅する60章

韓国文学を旅する60章

  • 波田野節子/編著 斎藤真理子/編著 きむふな/編著
  • 明石書店
  • 2020年12月

今、注目を集めている韓国文学。でもこんなことで困っていませんか?
・興味はあるけれどどこから手を付けようか迷っている。
・話題の作品は読んだけど、他にどんなものがあるのか分からない。
・そもそも、歴史や文化などの背景を知らないと楽しめないのでは……?
そんな迷える子羊にぴったりの本を紹介します。
この本は、49人60点からなる韓国文学の解説書。といっても堅いものではなく、エッセイとして楽しめる本です。
ポイントは紹介されている作品の幅広さ。
古典から現代文学まで取り上げられていること、また執筆者も研究者から作家・翻訳家などバラエティに富んでいることから、様々な視点で、より深く韓国文学に触れることが出来るでしょう。

少年が来る

少年が来る

  • ハン・ガン/著 井手俊作/訳
  • クオン
  • 2016年10月

物語の冒頭からおびただしい数の棺の中で黙々と出棺の記録をノートに書き込んでいく少年・トンホ。何かただならぬことが起こったその事後処理であろうことは想像できるのに、肝心のその何かは語られない。詳細を告げられぬまま事故現場に放り込まれたような不安の中で読者は第二章を迎え、トンホが探し続けていた友人の“魂”の視点から現場の異様な光景を目の当たりにする。第三章以降もトンホの身近な者が語り手となり、時間は前後に飛びながら、ことの詳細が少しずつ輪郭を帯びてくる。出版検閲。軍人による容赦ない暴力。銃を持ち広場に参集する市民、侵入する軍。一つ一つ真相の断片が提示され合わさることで、1980年5月18日に韓国で実際に起こった歴史的事件が像を結び始める。
しかしながら、それは著者の意図だろう。微に入り細を穿った事件の全容が顔を出すことはない。ほんの40年前、韓国で起こったこの出来事をただただ知っておいてほしい、忘れないでほしいという著者の静かな、しかしながら強い願いの表れだと感じた。

われらが〈無意識〉なる韓国

われらが〈無意識〉なる韓国

  • 四方田犬彦/著
  • 作品社
  • 2020年11月

四方田犬彦が韓国を主題とする新刊を出した。というのは驚きではないが、タイトルが『われらが〈無意識〉なる韓国』とあっては、これはもうただごとではない。1987年発表の『われらが〈他者〉なる韓国』は、それまでの映画関連からその範疇を一歩踏み出した彼の批評家としての記念碑的著作であり、今回はその名を引き継ぐ韓国論集が出版されたということだからだ。
本書は、2000年から2020年までに韓国について書かれた文章(書き下ろしも含む)から約半数を選んで編集されたもの。4部の構成は、まず日韓の歴史的事件をめぐる考察、次に韓国映画を中心とする映画論(ポン・ジュノについては2章 。ソウルで同じアパートに住んでいたという驚異のエピソード)、そして偶発的に執筆された短い文章群、と続き、最後は著者が出会った忘れ難き韓国人・朝鮮人の肖像、とされる。残念ながら音楽については取扱いがない。BTSはともかく、(金時鐘の詩をラップし、対談も果たした)Moment Joonについては、今後の言及が待たれる。
1979年と2000年の長期滞在を含め、著者は幾度も韓国を訪れている。実際に足を踏み入れて味わった感情、両国で共に生きた人たちから直に受け取った言葉の一連は、彼を比類のない「韓国通」にした。その上で達観もせず、諦念も抱かず、あくまで「具体的な生活感覚」から語り起こさんとするその文章によって、我々読者の日韓と韓日に対する認識は更新を重ね、数多の情報や関連書からは決して得られない、機微をともなった自分だけの理解を手にすることができるだろう。