おすすめの本

眠れない夜のために

  • 掲載日:2021年8月15日

蒸し暑く、寝苦しい。あるいは心配事のせいでなかなか眠れない、そんな夜。
安眠できる方法を試すのもよいですが、無理に眠ろうとせず、かたわらの本に手を伸ばしてみてはいかがでしょう。
眠れない夜だからこそ、深く心に残る。そんな一冊が見つかるかもしれません。

深呼吸の必要

深呼吸の必要

  • 長田弘/著
  • 晶文社
  • 1984年3月

みなさんは眠れない夜をどうやって過ごしていますか?
私は普段は気にも留めない、どうでもいいようなことを考えたり、子どもの頃のことを思い出したりするのが好きです。
それを手伝ってくれる、眠れない夜にそばに置きたい一冊が、長田弘さんの『深呼吸の必要』です。
クリーム色の紙に深緑の文字で散文詩がゆったりとならび、長田さんの子どものころの記憶の断片が鮮明に書かれています。
読んでみると、子どものころ自分も同じようなことを考えていたな…と思ったり、はたまた全く考えもしなかったことが書かれていて、なるほど…と妙に納得して安心したり、新たな発見に嬉しくなったりします。
むずかしい言葉はでてきません。使い慣れたいつもの言葉でゆっくり過去を思い出し、深呼吸できる場所をつくってくれています。
長田さんは本の中でこう問いかけます。
「きみはいつおとなになったんだろう 子どもからおとなになるその境い目を、きみがいつ跳び越しちゃってたのか、きみはさっぱりおぼえていない。」
確かにそういわれると、「あのときです」と答えられないかもしれない…みなさんは自分の「あのとき」を答えられますか?
そうしてぐるぐる思いを巡らせて夜が更けていきます。

銭湯図解

銭湯図解

  • 塩谷歩波/著
  • 中央公論新社
  • 2019年2月

「湯治」という言葉があるように、眠れないときや調子が悪いときにゆっくりお風呂に入ると、身体の深部から温まり、副交感神経が優位になることで質の良い睡眠が得られます。できれば温泉旅行に行ってリフレッシュしたい所ですが、まだまだ世の中は自粛ムード。そんなときは感染症対策をしながら、近所の銭湯に行ってみてはいかがでしょう。
この本は東京にある銭湯を、建築のパースを使用した俯瞰図で精密に紹介した一冊です。著者は杉並区・小杉湯に勤務するイラストレーター。建築的な銭湯の特徴だけでなく、温冷交代入浴法やサウナの作法、味のある銭湯小物まで、至る所に銭湯愛を感じる水彩画と文章が満載です。荒川区にある銭湯も紹介されているので、読むとふらりと銭湯に行きたくなりますよ。
心と身体を整えたいとき、ゆっくり眠りたいとき、「黙浴」をしつつ「プチ湯治」を楽しんでみては?

ライオンの皮をまとって

ライオンの皮をまとって

  • マイケル・オンダーチェ/著 福間健二/訳
  • 水声社
  • 2006年12月

<これは、若い娘が夜が明けるまでの時間に車の中で聞きとる物語だ>
1930年代のトロントを舞台とした小説『ライオンの皮をまとって』は、こんな一節から始まります。登場するのは、尼僧、向こう見ずな男、パン屋、行方をくらませた億万長者、その愛人、捜索者、泥棒、水道局の幹部……。
ただ、この小説は万人受けするものではないかもしれません。登場人物の多さに比例するように、ストーリーの糸は細く、絡み合って、どこを切っても単純なかたちに収まってはくれません。また、文章は唐突だったり、思いがけない方向に飛躍したり、ときには誰が語っているのかわからなくなったりすることもあります。
ともすると、とっつきにくい印象を受けるかもしれませんが、オンダーチェの描く世界にはそれを補って余りあるだけの魅力があると個人的には感じています。たとえば、夜の場面の鮮やかな描写。あるエピソードを別の角度から見られることの驚き。小説のなかに流れる時間は自由で、主人公たちは常に道を踏み外すことを望んでいるかのようです。
心安らぐ物語ではないかもしれませんが、眠れぬ夜に  ― 同著者の手による『イギリス人の患者』の前日譚でもある ―  こちらの本をお薦めします。