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海の生き物 見る・知る・食べる

  • 掲載日:2018年7月15日

海の日を含む三連休、海水浴に出かける人も多いでしょうね。ちなみに「海の日」は、「海の恩恵に感謝するとともに、海洋国日本の繁栄を願う」ことを趣旨としているそうです。海に囲まれた国・日本にとって、海といかに関わり、そこに住む生き物とどう付き合っていくかは、昔も今も重要なテーマであり続けます。
時代の変化に伴い、かつては狩猟・漁業の対象だった生き物が、保護の対象になることも少なくありません。はるか遠くの海や、深海に暮らす生物も観察できるようになりました。関心度の高さを反映してか、日本国内の水族館の数は世界でもトップクラスです。
今月は、豊かな海の生命に、多様な観点から近づきます。

水族館哲学-人生が変わる30館-

水族館哲学-人生が変わる30館-

  • 中村元/著
  • 文藝春秋
  • 2017年7月

水族館、と聞いてどんな場所だと想像するだろうか?
子どものころに遠足や校外学習で行ったきりの、『教育の場』?
家族連れでイルカやアシカのショーを楽しむ、『娯楽施設』?
水族館プロデューサーでもある著者は、「水族館を上記のような場所としか捉えていないなら、人生損をしている」と断言している。
この本は、ただの水族館ガイドではない。「どんな生き物が見られるか」だけでなく、その水族館に行くことで「何を得られるか」にフォーカスを当てて紹介している。
圧倒的水量を誇る巨大水槽が生み出す、水面と光による揺らぎからは癒しを、展示される生き物の「食べもの」としての側面からは命の大切さを、逆境からの復活を遂げた施設からは関わった人々の努力とアイデアを、垣間見ることができるだろう。
この夏も、過去最高気温を更新するような暑い夏になりそうだ。厚いガラス越しに快適な屋内で、生きものたちの熱い躍動を体感しに行くのもいいかもしれない。

ペンギンが教えてくれた物理のはなし

ペンギンが教えてくれた物理のはなし

  • 渡辺佑基/著
  • 河出書房新社
  • 2014年4月

渡り鳥はどこからどこへ飛んでいくのだろう。地球規模で回遊するマグロやクジラは、どこに、何のために移動するのだろう。限られた観察だけでは、どうしても分からないことがある。その限界を超えるための調査手法が、本書のキーワードである、バイオロギングだ。
動物に小型の記録機器を取り付けて、その行動を細かく、長時間にわたり「観察」する。はるか上空でも、光の届かない深海でも追跡できる。デジタル技術の発展とともに、バイオロギングは急速に普及していった。
そして明らかになった驚くべき動物たちの行動。たとえば、
・アホウドリは46日間で地球一周する。
・ウェッデルアザラシは1時間も無呼吸で潜水を続けられる。
・ホホジロザメは200日かけて往復2万キロ移動する。
などなど。いずれも驚異的な行動能力だが、その背景にあるメカニズムや進化的な意義も、物理学の基本法則と、生物学の基本原則を駆使してすっきりと説明できる。力学・生態学・進化論など、様々な知見を総動員する「ペンギン物理学」の研究成果が、一番の読みどころだ。
動物に負けず劣らずの行動力で、北極から南極まで飛び回る著者の試行錯誤の描写もまた楽しい。近い未来、より多くの謎が明らかになることを期待したい。

おクジラさま-ふたつの正義の物語-

おクジラさま-ふたつの正義の物語-

  • 佐々木芽生/著
  • 集英社
  • 2017年8月

漢字でクジラは「鯨」と書く。魚偏(さかなへん)から分かるように、古来、魚の一種と考えられてきた。しかし生物分類的には哺乳類である。そして20世紀後半、クジラ・イルカの賢さを示す報告が増えるにつれ、それらを特別な生き物として保護する思想が広まっていった。一方、捕鯨の伝統を維持する地域もある。
果たしてクジラは「水産資源」か、守るべき「共有財産」か。本書は捕鯨問題をめぐる多様な視点・価値観を描いたノンフィクションだ。昨年公開された同名のドキュメンタリー映画の監督である著者が、映画では描ききれなかった背景や内情を明らかにしている。 主な舞台は、紀伊半島南端に位置する和歌山県太地町(たいじちょう)。そこでの捕鯨をめぐる衝突の様子が、客観的な視点で記述されている。著者は足かけ6年にわたる取材と撮影のなかで、住民・漁師だけでなく、捕鯨に抗議する動物保護団体のメンバーや、クジラ・イルカ漁反対の日本人など、多くの関係者から話を聞いていく。さらに捕鯨・反捕鯨の背景にある歴史や思想をひも解いていく。
すでに政治問題となった捕鯨問題だが、敵と味方、白と黒に二分するとこぼれ落ちるもの、見えなくなるものがある。それをすくい取れることが、すぐれたノンフィクションの証といえる。本書を読み終えても、明快な結論は出ないかもしれない。むしろ読者に自ら考えることをうながす。
最後に著者が見出したのは、「正義の反対は悪ではなく、別の正義」という教訓だった。