おすすめの本
元祖の姿(10月)
- 掲載日:2022年9月17日
学校でALTに英語を習い、大人になって飛行機で旅をし、病んでは内視鏡による検査や治療を受ける現代。
歴史を振り返ってみれば、そのような制度や事物の先駆者、つまり「元祖」を必ず見いだすことができる。
今回は荒川区出身の文豪、吉村昭が小説に描いた様々な時代の元祖の姿をお楽しみいただければ幸いです。
海の祭礼(新装版)
- 吉村昭/著
- 文藝春秋
- 2004年12月
嘉永年間の初夏の日、アイヌの住む島に若い異国人が小舟に乗ってやってきた。開国間近の日本で英語教師、あるいは幕府の顧問になるという夢を抱ていたアメリカ人、ラナルド・マクドナルドである。
異国人は島民に助けられたが、国法に反して入国したものとして拘留され、日本を去るまでに長崎で監禁される。時代が大きく揺れ動くなかで、はじめて日本の文化と言葉に接するマクドナルド、そして彼に付き合う番人や通訳のオランダ通詞、藩役人の奮闘は時には緊張、時には笑いを誘うように描き出されている。
さて、志のあったマクドナルドは日本の歴史になにを残したのだろうか。この頃話題になっている異文化間コミュニケーションを考える上でも、示唆に富んだ一冊。
光る壁画
- 吉村昭/著
- 新潮社
- 2016年6月
胃の中を撮影できるカメラを作りたい―戦後まもない日本、カメラ会社の研究員である曾根と杉浦は、医師の宇治に協力を求められ、世界初の胃カメラの開発に取り組むことになった。しかし、それは到底不可能に思えるほど前途多難な挑戦であった。三人は、幾度となく失敗を繰り返しながらも、試行錯誤で胃カメラを作り上げ、実用化への道を模索してゆく。
長年、多くの医師が切望しながらも、成し遂げられずにいた前人未到の夢に情熱をもって挑んだ男たちの真実の物語。
テレビドラマ化もされているので、読んだ後は、映像で作品の世界を楽しむことができる(DVD「光る壁画」荒川区立図書館所蔵)。
虹の翼(新装版)
- 吉村昭/著
- 文藝春秋
- 2012年6月
自作の凧を舞い上げ、町の人々を魅了する少年は、大空に自らの夢を描いた。ライト兄弟よりも早く「飛行器」創りに励んだ二宮忠八の生涯を描いた作品。
0から1を創るのは難しい。家業の没落、日清戦争出兵、終戦後の製薬事業立ち上げなど、時代の波にのまれながらも、夢である「飛行器」のために努力は惜しまなかったのだが・・・・・
「二宮君は人をひきつける生まれながらの才能にも恵まれている」と周囲の人が言うように、読者も魅了される。困難を乗り越えて成長する忠八の様々な表情を思い描き読み終えた時、温かい気持ちに包まれ、さらに彼のことが知りたくなる。