おすすめの本
建物から生まれる物語(12月)
- 掲載日:2024年12月15日
建物の物語というと、トリックいっぱいの館ミステリーを連想するかもしれません。
しかし、建物が生み出す物語はそれだけではないのです。住宅にも、いわゆる名建築と呼ばれる建物にも、ドラマがあります。その一部をご紹介しましょう。
シャーロック・ホームズの建築
- 北原尚彦/文 村山隆司/絵・図
- エクスナレッジ
- 2022年2月
なぜか間取り図が好きである。不動産のチラシがあれば、用もないのに見入ってしまう。もし、同類の方がいらっしゃるならば、ぜひこの本をお勧めしたい。 本書は、かの有名なシャーロック・ホームズの小説に出てくる17の建築を再現する試みである。外観や間取り図を、当時の建築様式や建築用語を踏まえて、できるだけ原作に忠実に描く。やはり矛盾してしまう描写もあるのだが、あれこれ考察しながら整えていく過程が楽しい。最初の建築はもちろん、ホームズと相棒ワトソンが住む“ベイカー街221B”だ。
★ご注意:再現する過程で、ストーリーの先の方まで述べている場合があります。これから作品を読むという方はお気をつけ下さい。
ノースライト
- 横山秀夫/著
- 新潮社
- 2021年12月
ノースライト。それは北から差し込む柔らかな光・・・。建築士の青瀬は吉野一家から「あなた自身が住みたい家を建てて下さい」との依頼を受け、ノースライトを湛える家を建てた。しかし、その後、その家には誰もいないようだと青瀬は耳にする。現地を訪ねてみると、家には住んだ形跡もなく、ドイツ人建築家ブルーノ・タウト作らしき椅子だけが残されていた・・・。吉野たちはどこに消えたのか? 椅子は本当にタウトの作なのか? その謎を追いながら、公共工事の入札も絡み、物語は進んでいく。バブル崩壊で仕事が破綻、妻とも離婚し、仕事に対する情熱を保てなくなった青瀬が、この謎を追いながら、建築に対する情熱を再燃させ、家族にも真摯に向き合っていく。この小説には他にも多くの家族が描かれている。警察を舞台とした小説が多い横山氏だが、“建築士”という仕事をリアルに描写するとともに、家族のあり方についても考えさせられる作品となっている。
ヴェルサイユ宮殿に暮らす-優雅で悲惨な宮廷生活-新装版
- ウィリアム・リッチー・ニュートン/著
- 白水社
- 2022年3月
ヴェルサイユ宮殿は世界遺産にも登録されている豪華絢爛な宮殿です。ルイ14世のころ完成した絶対王政を象徴する建造物です。王を頂点に千人以上がひしめき暮らしていたそうです。それだけの人間が暮らせるほどのスペースも設備もなかったことからはじまる人々の悲惨な生活。 住居・食事・掃除などの視点から貴族たちの日常をのぞくと、なんだか気の毒になってしまいます。 食卓の残り物は、官僚から下っ端の雇われ人に順に回されていった…。トイレの掃除で死人が出る…。 舞踏会のあとに残った蝋燭の燃えかすをかき集めて兵士たちに配った…。いろいろな文献を紐解き、宮殿での悲惨な生活をよみがえらせています。