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アニメーションを創りだす

  • 掲載日:2019年12月15日

現在、映画やテレビで多種多様なアニメーション作品が上映されています。私たちを楽しませてくれるアニメーションですが、その具体的な作り方はあまり知られていません。
本来動かないはずの絵を生きているかのように動かす技術は、ときに命を吹き込む魔法とも例えられます。そんな魔法の使い手たちに、様々な角度から光をあてる3冊です。

声優道-名優50人が伝えたい仕事の心得と生きるヒント-

声優道-名優50人が伝えたい仕事の心得と生きるヒント-

  • 声優グランプリ編集部/編
  • 主婦の友インフォス
  • 2019年3月

アニメのキャラクターに「声」という命を吹き込む職業、声優。この本は、日本を代表する声優50人に「声優とは」を尋ねたインタビュー集である。
ひとくくりに「声優とは」といっても、声優になった経緯やなってからの歩み、今後の目標、今と昔の声優に求められるものの違いとそれについての考えなど、50人が50通り、まさしく「千差万別」である。
どの方の言葉も、ご自分で体得しての言葉なので含蓄があり、読んでいてうなずくことしきりである。特に印象に残ったのが『サザエさん』のアナゴさん役や『人志松本のすべらない話』のナレーションでおなじみ、若本規夫(わかもとのりお)さんの「けもの道を自分でナタで切り拓いていくようなもの」が“声優道”である、という言葉。現に若本さんは、すでにキャリアを積まれていた50歳を過ぎてから多岐にわたる修練(声楽、古神道の祝詞(のりと)や浪曲、様々な流派の呼吸法、あげくは大道芸まで!)をされて、自分を磨いていったのだと語る。
ここに登場する誰しもが、人気やキャリアに甘んじることなく、技術の向上はもちろん、人間的成長のための努力を重ねていることが、この本を読むとよくわかる。「あぁ、アニメって尊い、プロフェッショナルって素晴らしい!」と思える1冊である。

日本のアニメーションを築いた人々

日本のアニメーションを築いた人々

  • 叶精二/著
  • 復刊ドットコム
  • 2019年8月

有名なアニメーション作品は、監督の名前をつけて「○○アニメ」と呼ばれることがあるが、ほとんどの作品は数十人、数百人の集団作業の成果である。その中でも中心的な役割を担うのが、「アニメーター」と呼ばれる人々。静止した絵をなめらかに動かし、キャラクターに生命を与えるためには、優れたアニメーターの存在が不可欠だ。
本書では、日本のアニメーションの創成期から現代に至るまで、第一線で活躍してきたベテランアニメーター6名を紹介している。かれらの名前は初耳でも、関わった作品は誰もが聞いたことがある名作ぞろい。まさに日本アニメの基礎を築いた、知られざる功労者たちといえる。
各作品の制作エピソードからは、制作現場の過酷さと、かれらの作品づくりにかける情熱が伝わってくる。先人から受け継いだ技術を発展させ、自分ならではの新しい表現に挑戦する。少ない予算と短い期間のなかで、そうした試行錯誤を繰り返し、日本のアニメーションは独自の進化を続けてきた。
宮崎駿(みやざきはやお)監督が、アニメーター・森康二(もりやすじ)氏から受け取ったものを「リレーのバトン」に例えて、それが「次の人々に伝えられますように」と語っている。そこには技術だけではなく、美意識、仕事への向き合い方など、多くのものが含まれているはずだ。デジタル化の進んだ現代のアニメーション制作においても、良質な作品づくりには人間の思考と思想が重要だということが、本書からは読み取れる。
アニメに関心のある人のみならず、モノづくりに関わる全ての人に、本書を手に取ってほしい。

ピクサー 早すぎた天才たちの大逆転劇

ピクサー 早すぎた天才たちの大逆転劇

  • ディヴィッド・A・プライス/著 櫻井祐子/訳
  • 早川書房
  • 2015年2月

卓越したアニメーション映画を生み出し、アカデミー賞を多数受賞してきたピクサー・アニメーション・スタジオ。1986年の設立から30年余りで、どのようにしてピクサーは世界のアニメーション映画市場を牽引するまでに至ったのか。本書は、草創期からのピクサーの歩みを、徹底した取材をもとに描き出したノンフィクションである。
本書で紹介されるアニメーション制作の舞台裏、特にキャラクターに魂を吹き込む演出技法や、知覚できないほどのディテールの表現技術を知ると、より映画を楽しめるだろう。
またアニメーターや監督の要求を実現するために、当時の最新技術が駆使されてきた。新しい表現のために、技術スタッフが専用プログラムを作成することもまれではない。最高の映画をつくりだすための「完璧主義と創造への情熱」(p.257)が、全社員の間に共有されていたことが見てとれる。
経営面で主要な役割を果たしたのが、ピクサー創立者の一人であるスティーヴ・ジョブズだ。赤字続きだったピクサーを、「トイ・ストーリー」の成功まで存続させ、強気の交渉でディズニーとの契約をとりまとめたのは、ジョブズならではの業績といえる。一見すると型破りな経営判断が、ピクサーに経済的自立をもたらし、その後のピクサー・ブランドの確立につながった。
非凡な才能たちによる、妥協なき芸術性、限界に挑む技術の追求、そして誰も見たことのない映画を作るという情熱。本書からは、ひとつの組織が創造性を保ち続けるための秘訣を見出すことができる。